2013/06/28

緑化壁の設置は著作権違反か(3/3)



庭園内にあたらに緑化壁を設置することが,庭園の著作権違反にあたると主張して仮処分を申請するうごきについて,前々回から3回目,最後の検討をしてみます。

今回は,(庭園が著作物にあたり,庭園設計者が著作者と仮定して)緑化壁の設置がどのような権利を侵害する可能性があるか,見てみます。

なお,上記の写真は今回の庭園とは無関係です。

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今回の仮処分では,緑化壁の設置が,「著作者人格権」のひとつである「同一性保持権」(著作権法20条1項)の侵害に当たると主張されています。

同一性保持権とは,著作物の改変を受けない権利です。

本質に触れない,細部の変更は改変にあたらないという考えもありますが,一方,送りがなの変更などでも改変にあたるとする裁判例もあり,一般的には小さな変更でも改変にあたると考えられています。

報道によると,緑化壁は「高さ9・45メートル、全長78メートル、幅3メートル」 の「巨大モニュメント」のようです。
これが庭園内に設置されるなら,改変にあたる可能性が高いでしょう(どこに設置されるかもとても重要です)。

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改変にあたるとしても,増改築等の改変は許されています(20条2項2号)。

これは,建築物は実用物であるため,経済的・実用的目的に伴う改変はしかたがないと考えられたからです。

今回はこの規定が適用されるかが大きな争点になりそうです。

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以上,3回にわたって,庭園に緑化壁を設置することが著作権法上どういう問題なのかを見てきました。

なお,今回は触れませんでしたが,建物と庭園が一体として「建築の著作物」にあたる可能性もありえます。
今回に似た有名事件(通称「ノグチ・ルーム移築事件」 東京地裁平成15年6月11日決定)では,建物と庭園が一体の建築の著作物であるとの見解が示されています。

2013/06/27

緑化壁の設置は著作権違反か(2/3)



前回に引き続き,庭園内にあたらに緑化壁を設置することが,庭園の著作権違反にあたると主張して仮処分を申請するうごきについて,検討してみます。

今回は,庭園が著作物にあたるとして,誰が著作(権)者なのかを見てみましょう。
なお,上の写真と今回問題の庭園は無関係です。

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 著作者とは,「著作物を創作する者」とされています(著作権法2条1項2号)。

「創作する」とは,事実行為として創作行為を行った者とされています。

 例えば,ゴーストライターは,依頼者との間では「書いたのは有名人本人」という合意がありますが,事実として文章を考えて表現したのはライターですので,ゴーストライターが著作者になります。

一方, 創作行為とは,外部に現された表現の中にその人の個性が現れる表現行為と考えられています。
 
ですので,仮に庭園の設計者の考え通りに 造園されたのだとしたら,実際に木を植えたのは設計者だけではないかもしれませんが,著作者は庭園設計者と考えてよいのではないでしょうか。

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3回目の次回は,緑化壁の設置が,著作者のどのような権利を侵害する可能性があるのか,を検討してみます。

2013/06/22

緑化壁の設置は著作権違反か(1/3)



庭園内にあたらに緑化壁を設置することが,庭園の著作権違反にあたると主張して仮処分を申請するうごきがあるようです。

少し複雑な問題なので,3回に分けて見ていきましょう。
なお,写真は今回話題になっている庭園ではありません。

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著作権が認められるためには,著作権法上の「著作物」にあたるかどうかが基準になります。

著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、芸術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法211号)とされています。

この定義は,概ね,


(1)「思想又は感情」を

  (2) 表現したもの

  (3) 創作性
  (4) 文芸、学術、美術、音楽の範囲
 の4つの要件に分けて考えられます。

なお,この定義とは別に,各種の著作物の例示(10条1項各号)がありますが,必ずしも例示に当てはまらなくても,この4つの要件を満たすものは著作物として保護されると考えられています。

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では,今回の庭園は,著作物にあたるでしょうか。

これを検討するには,事実として,今回の庭園がどのようなものなのか,もっと情報が必要です。

一方,抽象的に「庭園」が「建築の著作物」にあたるか,と言う点はすでに議論されています。

「建築」とは柱や屋根のある構造物に限るとする考えもありますが,庭園も含めて広く捉える説もあります。

また,「建築の著作物」には,美術性あるいは芸術性を有することが必要という考えが有力です。


ですので, 少なくとも,一定の要件を満たした庭園は,著作物として認められる可能性はあります。

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次回は,庭園が著作物にあたるとして,その著作(権)者は誰か?について考えてみます。

2013/06/20

被災したマンションの解体が8割の同意でできるように



被災したマンションの解体について,8割の同意で認める被災マンション法の改正が成立しました。

以前から,被災マンション法には建て替え決議の要件緩和などが規定されていました。

一方,東日本大震災で被災したマンションでは,建て替えではなく解体(取り壊し)を選んだケースがありました。

建て替えした場合の費用負担が過大であることや,がれき撤去は行政が無料で行ってくれたこと,などの理由で解体を選ぶマンションがいくつかありました。

解体の一番のネックは,特に法律に規定されていないため,原則通り全員一致が必要なことでした。

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全壊したマンションは,余震で倒壊するおそれもあって危険なため,早急に解体など何らかの対策を取る必要があります。

一方,解体はマンションという財産もそこで形成された人間関係も全て清算するものですので,いつでも4分の3以上の同意で解体できるとすることは問題があります(反対しているのに自分の家が壊されるのは,よほどの場合でない限り,理不尽でしょう)。

ですので,被災マンション法という,災害で被災した場合に限定して適用される法律の改正で対応されました。

2013/06/18

令状無しで通信を傍受できるか



アメリカの情報機関が,令状無しにアメリカ国内の通信を傍受していたとのリークが話題になっています。

日本では,以前は検証令状によって通信傍受が認められていました。

その後,通信傍受法が制定され,この法律に基づく傍受令状によって,通信傍受が認められています。

ただし,傍受が許される捜査対象の犯罪は,薬物や銃器,組織犯罪による殺人など限定されています。

また,必ず令状を取らないと許されませんし,立会人も必要です。

ですので,仮に日本で令状無しに通信傍受したら,米国と同様,大きな問題になると思われます。

2013/06/17

捜査機関による鑑定データ偽造



和歌山県警の科捜研職員が,変死等の鑑定データを偽造した事件で,執行猶予判決がでたそうです。

問われた罪は証拠隠滅罪(刑法104条)と有印公文書偽造・同行使罪(同155条,158条)です。

証拠隠滅罪が対象にしている行為には,偽造が含まれています。

 有印公文書偽造罪は,作成権限の無い公文書を,名義を偽って作成することを対象にしています。

被告人は,別の事件のデータを流用して鑑定書類をでっちあげ,さらに勝手に上司の印を押した送付書を「偽造」したとのことです。
情報が少ないのですが,少なくとも,送付書の作成は罪としての「偽造」にあたります。

ただし,作成権限のある公務員が内容虚偽の公文書を偽造した場合も,別の罪に問われます(虚偽公文書作成罪,156条)。

2013/06/13

サクラサイト詐欺にご注意



芸能人を騙るサクラを使って,利用料を騙し取っていた出会い系サイトの経営者が逮捕されました。

数年前から同様の被害が報告され,「サクラサイト商法」などと呼ばれて,国民生活センターなどで報告・注意喚起されていました。

詐欺の内容としては,芸能人を自称するサクラとメールのやりとりを重ね,その利用料金(メール交換のたびに課金される)を騙し取るものです。

 有名人が自分にだけ悩みを打ち明けてくれる,といった高揚感でメールのやりとりを重ね,高額の利用料金(前払いのポイント制が多い)を支払ってしまうようです。

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同様の事件で,以前にも摘発例はありました。
サクラが実刑判決を受けたこともあります。

民事でも,サクラによる被害を詐欺と認めて利用料の返還など約600万円の損害賠償支払いを命じた裁判例があります(さいたま地裁平成23年8月8日判決)。

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この他にも, 対戦型ゲームへの招待(内容はポイント購入額を競うというもの)といった,広く「劇場型」といえる詐欺手法も報告されています。

対策としては,まずは,面識のない人からのメールなどには,安易に反応しないことが重要です。