幼少時に性的虐待を受けた女性が加害者に損害賠償請求した裁判の判決が釧路地裁でありました。
性的虐待を行ったこと自体は一部認定され,報道によると加害者本人も認めているようです。
しかし,結果は請求棄却(女性の敗訴)でした。
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今回は,性的虐待を受けたときから相当な期間が経過してからの損害賠償請求であったため,権利が消滅しているのではないかが問題になったようです。
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
民法724条後段では,「不法行為の時から20年を経過」したとき,損害賠償請求権が消滅するとされています。
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世間一般で「消滅時効」と言われているものには,法律的には「消滅時効」である場合と,「除斥期間」の場合があります。
ごく簡単に言えば,除斥期間は「この期間までに権利を行使しなさい。行使しなければ消滅します。」という制度です。
除斥期間は,消滅時効よりも長期の期間が定められています。その代わり,時効と違って中断したりしないとされています。
除斥期間に定められた期間内に権利行使しなければ,問答無用で権利が失効する,誤解を恐れずに言えばそういう制度です。
伝統的には,期間さえ経過すれば,一律に権利行使をシャットアウトするものと考えられてきました。
今回問題になった民法724条後段は,除斥期間だと考えられています。
そうすると, 性的虐待から20年以上経過している今回のケースは,権利が失われているように思えます。
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しかし,最近では,除斥期間であったとしても,正義や公平に適う解決を発見していこう,という考え方が一般的です。
一例として,裁判所も,B型肝炎のケースで,原因となった予防接種時でなく,B型肝炎を発症した時点が20年の数えはじめのスタートラインである,と判断しています。
権利を行使できないのに除斥期間が進んでしまうことの修正といえます。
なお,このスタートラインのことを,「起算点」と呼んでいます。
本判決の内容は詳しく分からないですが,こちらの報道からは,PTSDを発症した時点である6,7歳のころを起算点としたようです。
そして,6,7歳の起算点から既に20年以上経過していたため棄却されたと思われます。